パールネックレスには、たくさんの種類があります。
真珠の種類、長さの種類、そしてネックレスに仕立てるために使用する糸素材の種類。
前回は、それらの中でも糸で仕立てられたチョーカータイプネックレスの糸替えについて、ご紹介しました。
2回目となる今回は、糸とワイヤーのネックレスの違いとその糸替えについて、解説していきたいと思います。
糸とワイヤー:ネックレスでの使い分けとは?
まず、ネックレスを仕立てる糸素材には、大きく分けると糸とワイヤーがあります。
↑ 糸とワイヤー
両者は、強度や特徴が異なるので、使い道も必然的に異なります。
糸で仕立てるネックレス
糸で仕立てるネックレスは、主に以下のようなタイプのものです。
- チョーカーやプリンセスといった、短めのネックレス(45cm程度まで)
- あこや真珠や淡水真珠など、珠が小さめの真珠ネックレス
糸で仕立てたネックレスは、通常ピンと張った仕上がりになります。
ちなみに、この写真に写っているネックレスは、仕立てたばかりのネックレスではありません。
これは私が所有しているネックレスで、2年ほど前に糸替えをしています。
自粛生活のせいもあって、最近はあまり使用していませんでした。
作ったばかりのネックレスの場合は、この写真よりもピンと張っています。
そのため、ネックレスは垂れ下がらずに浮いた状態になります。
つまり、糸で仕立てたネックレスは、初めはかなりキツく張られた状態にあるのです。
そうすることで、凛とした印象のネックレスになります。
ただ、糸で重いものを下げるには、限度があります。
もちろん、真珠の重み程度なら糸でも十分に耐えられますよ。
けれど真珠が重くなればなる程、糸は伸びやすくなる。つまり、ネックレスの糸の寿命が短くなるのです。
そのため、珠が大きいネックレスやロングネックレスの場合は、糸よりもワイヤーを用いることが多いです。
ワイヤーで仕立てるネックレス
糸に対して強度の面で優れている素材が、ワイヤー(通常ステンレスワイヤー)です。
ワイヤーは、糸のように伸びることはありません。
また、少々の事では引きちぎれず、真珠の重さを気にする必要なく使用できます。
ワイヤーが適しているネックレスとは、先ほど解説した通り。
- ロングネックレス
- 大珠で重いネックレス(南洋ネックレス・黒蝶ネックレスなど)
- 2連以上のネックレスで、ねじっているタイプのネックレス
そして実は、ワイヤーネックレスも、糸のネックレスと作り方が似ています。
糸の時と同じ画像ですね。
多少通す順番は異なりますが、ワイヤーで仕立てるネックレスの作成過程も、ほぼ同じような感じです。
ただ1つだけ、糸で仕立てる場合と大きな違いがあります。
それは、ワイヤーで繋ぐネックレスは、すべての珠と珠の間にクッション材(主にシリコン製)を入れて作成する、という点。
なぜクッション材が必要かというと、ワイヤーは伸びないから。
ワイヤーには、しなやかさもなければ、伸びることもない。
糸と同じように強く引き締めてしまうと、永遠に真珠同士が擦れてしまい真珠が傷つきます。
そこで、真珠と真珠の間にクッション材が必要となるのです。
間にクッション材が入っているため、ワイヤーのネックレスがピンと張ることはありません。
このように柔らかく、クシャっと置くこともできます。
ロングネックレスを結んだり、ねじったりできるのは、ワイヤーで作成しているからなんですよ。
ところで、まれにワイヤーで作成しているのに、クッション材を入れていないネックレスもあります。
珠が小さすぎる場合や、デザイン上の問題もありますが、通常のネックレスでワイヤーにクッションを使わないのは、あまりよくないですね。
ワイヤーは手抜きの仕立て方法なのか?
糸と比べると歴史の浅いワイヤーは、業界内で「邪道」「手抜き」と呼ばれることもあります。
確かに、ワイヤーで仕立てると、糸とは違った仕上がりになります。
どこか、無機質な印象。
対して、糸は時間経過とともに伸びるので、柔らかく、自然な印象を与えます。
また、糸よりも長持ちするワイヤーは、一度売ってしまえばアフターケアも糸よりずっと楽です。
そのため、「ワイヤーで仕立てたネックレスは売りっぱなしの商品で、店側がアフターケアを怠りがちになる」というイメージもあります。
(実際には、糸であろうとワイヤーであろうと、ジュエリーの定期的なケアは必須なのですが)
このような理由から、今でもワイヤーに良い印象を持たない方がいます。
糸で仕立ててこそ、正式なネックレス。
そういった意見も、もちろん間違いではありません。
でも、私はどちらで仕立てようと、ネックレスが美しく仕上がり、着ける人が満足できればそれでよいと考えています。
糸とワイヤー:ネックレスの糸替え時期
糸とワイヤーの使い分けがわかったら、次はそれぞれの糸替え時期(メンテナンス時期)について考えてみましょう。
糸で仕立てたネックレスの糸替え
糸のネックレスの糸替えに関しては、前回紹介した通りです。
この方法で、糸替えの時期を見定めてください。
糸のチェックを度々行う必要はありませんが、数年に一度は行うことをお勧めします。
ネックレスを使う予定がある場合は、少なくとも使用予定日の1か月前にはチェックをしてくださいね。
ワイヤーで仕立てたネックレスの糸替え
先ほど、ワイヤーは決して伸びることがない、と紹介しました。
強度が優れているので、人の手で引っ張って切れる可能性も少ないです。
ですがワイヤー特有の弱点があり、そのために糸替え(ワイヤー交換)が必要になる場合があります。
ワイヤー交換の目安の一つは、クッション材が無くなってきた時です。
ネックレスに使用されているクッション材は、多くがシリコンなど軟らかいゴムのような素材で出来ています。
そのため、クッション材の劣化や真珠との摩擦などの原因で、外れて落ちてしまうことがあります。
1つや2つ外れた程度では問題ありません。
ですが、いくつも外れてしまうと、外れた分だけネックレスに隙間が生まれます。
つまり沢山クッション材が外れたネックレスは、糸が伸びたネックレスと同じ状態になるんです。
この写真は糸ですが、ワイヤーでもこのような状態になる場合があります。
外れたクッション材の分だけ、隙間ができたのです。
クッション材が多く外れ、隙間ができた場合はワイヤー交換をお勧めします。
もちろん、クッション材が外れていなくても、真珠そのものが汚れている場合は、一度ワイヤーを外して全ての珠を洗浄した方が良いですよ。
また、ワイヤーは簡単には切れないと言いましたが、絶対に切れないわけではありません。
金属製の線材であるワイヤーは、折れ曲がりには弱い性質があります。
もしもワイヤーが折れ曲がっていれば、その個所は思っているより簡単に切れます。
そう頻繁に確認する必要はありませんが、時には手元のネックレスの様子をチェックしてあげてくださいね。
糸にはオールノットという仕立てもある
実は、伸びる性質をもつ糸でも、大きな珠の真珠ネックレスやロングネックレスを作成することができます。
上の写真は、糸で仕立てていますがワイヤーのようなしなやかさがありますよね。
このネックレスは、オールノット(オールナッツ)という技法を用いて仕立てています。
オールノットと言うのは、簡単に言うと全ての真珠の間に結び目がある仕立て方。
一つずつ結び目があるので、糸であってもしなやかさがあり、もし切れたとしても、珠が飛び散ることはありません。
また、一つずつ結んであるため、糸の伸びもあまり目立たないという特徴があります。
もちろん、たとえオールノットであっても、糸が伸びれば糸替えは必要ですよ。
ちなみに。
オールノットは、通常のネックレスよりも熟練の技術が必要な仕立て方です。
全ての結び目を、同じ形・強さで結ばなければ、美しく仕上げることができません。
逆に仕上がりの美しさを求めて緩めに結ぶと、全体がだらしない仕上がりになる。
丁度良い強さの結び目を何十回と繰り返すのは、本当に肩の凝る仕事です。
糸替えの際に、1個ずつ結び目を切らないといけないのも、また面倒な点なんですよね。
【ジュエリー学No.3】後悔先に立たずと言いますので
一言にネックレスと言っても、様々な仕立て方があります。
今回紹介した糸とワイヤー以外にも、テグスを使ったネックレスや、糸でもっと複雑に編んでいるネックレスもあります。
中には、もう国内では修理加工の職人を探す方が難しい、そんな仕立て方もあります。
例えば砂ケシという超小粒の天然真珠のネックレスは、もはや日本で糸替えをすること自体がほぼ不可能です。
もしかすると、今あなたの手元にあるネックレス、実はすごい技術で作られた一品かもしれませんよ。
とはいえ、長年放置していたネックレスを急に使えば、最悪糸が切れてしまう可能性があります。
どんなネックレスであっても、使用前にはチェックをすること。
何よりも、あなた自身のために、ネックレスの定期メンテナンスを行ってくださいね。
私は、葬儀の席でネックレスが切れてしまった人の話を、何度も見聞きしました(涙)