ジュエリーや宝石を購入するとよく目にする、鑑別書と鑑定書という言葉。
名前はそっくりですが、両者は全然違います。
また宝石に関する書面には、鑑別書と鑑定書以外にも、グレーディングレポート、保証書、ソーティングなど色々あるんです。
さらに近年は、真珠鑑別鑑定書という書面まで出てくる始末。
これら宝石に関わる書面には、一体何が書いてあるのか。
鑑別書と鑑定書って、何がどう違うのか?
今回は、ジュエリーや宝石に付属する書面について、解説していきます。
宝石に付いてくる書面は2種類
宝石についてくる書面は、大きく分けると2種類です。
- 鑑別書
- 鑑定書(ダイヤモンドグレーディングレポート)
漢字一文字ちがうだけなので、とてもややこしいですよね。
けれど、このたった一文字の違いが、大きな違いを生んでいます。
鑑別書とは
鑑別書は、検査した宝石の名前や種類について記載する書面です。
つまり、「この宝石は〇〇という名前の宝石ですよ」という証明書です。
鑑別書に記載されている内容で、最も重要な項目は2つ。
- 天然or合成+鉱物名
- 宝石名
鉱物名とは、検査した石の鉱物学上の名前。
鉱物名には、検査した石が天然か、それとも合成であるのかも表示します。
宝石名とは、検査した石の宝石としての名前。
二つの違いは、動物に例えるとわかりやすいです。
鉱物名=犬
宝石名=ポメラニアン・柴犬・チワワ
つまり、大分類が鉱物名、それぞれの犬種が宝石名という感じですね。
例えばダイヤモンドの鑑別書であれば、
- 鉱物名:天然ダイヤモンド
- 宝石名:ダイヤモンド
と表記されます。
ルビーの場合は、コランダムという鉱物の中で赤いものをルビーという宝石名で呼ぶので、
- 鉱物名:天然コランダム
- 宝石名:ルビー
となります。
また鑑別書には、他にも、検査石の色や大きさ、どのような検査を行ったのか等も記載されています。
<開示コメントは確認しておくべき>
鑑別書の内容で鉱物名・宝石名以外に、絶対に見ておくべき項目が一つあります。
それは、「開示コメント」。
開示コメントとは、宝石に施された処理等に関する情報。
処理に関する開示の義務がある場合に、文章で記載されています。
宝石は、そのほとんどが人為的な処理をされています。
熱を加えたり、内部の汚れを取ったり、開いている穴を埋めたり。
これらの処理は宝石を美しく見せるための行為であり、全てが悪意ある行為とはいえません。
例えば、養殖真珠はほぼ100%、処理を行います。
だって真珠は、海中に沈んだ生きた貝の中から取り出した物質ですよ。
表面は美しく見えても、真珠内部には海中の汚れが入っていることもあるんです。
それも、腐ってひどいにおいを発する汚れだってある。
だからほぼ100%の確率で、真珠は漂白などの処理を行います。
でも、いくら100%行う処理であっても、それを黙ったまま売るのは不誠実ですよね。
だからこそ、処理の内容はちゃんと伝えないといけません。
つまり開示コメントは、売り手が誠実である証明だとも言えるのです。
また鑑別会社側にも開示コメントを付ける理由があります。
一部の宝石に施された処理は、現在の技術を持ってしても看破不能なものがあります。
たとえば、アクワマリンは通常加熱する宝石ですが、加熱の証拠は検知できません。
加熱したかどうか、明確な証拠は出てきません。
そのため、アクワマリンの開示コメントには「通常、加熱が行われています」とだけ表記します。
つまり「検査したこのアクワマリンは加熱したかどうか分からないけれど、アクワマリンという宝石は基本的に加熱するんですよ」という意味です。
この開示コメントがないと、アクワマリンの加熱処理は「鑑別会社が見落とした処理」になってしまいます。
だから、例え検査では判断付かない処理であっても、開示コメントを記載するんです。
いろんな人の思惑が詰まった「開示コメント」、今度見かけたら一度じっくりと読んであげてください。
各宝石の開示コメントの詳細は、一般社団法人宝石鑑別団体協議会(A.G.L)のHPでも確認が可能です。
鑑定書(ダイヤモンドグレーディングレポート)とは
鑑定書は、正式名称をダイヤモンドグレーディングレポート(以下グレーディングレポート)と言います。
文字通りダイヤモンドの品質に関する書面です。
グレーディングレポートには、先日紹介した4Cに関する内容が記載されています。
当然ながら、グレーディングレポートはダイヤモンドにしか存在しません。
鑑定書・グレーディングレポートと言われたら、対象となる宝石は100%ダイヤモンドです。
ところで、「グレーディングレポート=ダイヤモンド」という公式には、もう一つ重要な意味が含まれています。
それは、グレーディングレポートが発行された段階で、検査対象の宝石はダイヤモンドであると確定している、ということです。
ダイヤモンドグレードにおいて、一番初めにチェックする項目。
それは、検査に持ち込まれた石が、ダイヤモンドであるかどうかの確認(=鑑別)です。
だから、グレーディングレポートはそれそのものが、ダイヤモンドの鑑別書でもあるんです。
<グレーディングレポートは天然ダイヤにしか出さなかった>
もともとは、グレーディングレポートはもっと狭義な世界の書面でした。
グレーディングレポートは、天然ダイヤモンドにしか発行してはいけない。
このようなルールがあったんです。
正確には、今もこのルールは健在です。
現在は様々な理由によって、合成ダイヤモンドにもグレーディングレポートや4Cの記載がある鑑別書が発行されています。
様々な理由です。
多分………………………………大人の事情です。彼らも、商売をしているんです。
以前なら、「4Cが評価されているダイヤモンド=天然ダイヤモンド」と確定していました。
4Cがついているなら、疑う余地もなく天然ダイヤモンドだったんです。
合成の台頭により、このルールが崩れつつあります。
もちろん合成ダイヤモンドのレポートには、きちんと「合成」と表記されています。
でも、一般の方でそこまでちゃんとグレーディングレポート読み込む人、一体どれくらいいるんだろう……
<ダイヤモンド以外の宝石に付いている4Cレポートは偽物>
ところで、ダイヤモンドによく似た石「合成モアッサナイト」に対して、4Cの鑑定書もどきを出している外国業者がいるようです。
合成モアッサナイトの鑑定書は、メルカリなどのフリマサイトでときどき見かけます。
GIAにそっくりな会社名で、GIAのグレーディングレポートにそっくりな形式の書面です。
合成モアッサナイトに、鑑定書などありません。
ダイヤモンドでもない物質に4Cなんてつけても、何の意味もありません。
ハイグレードであろうと何であろうと、無価値です。
もちろん、誰も何も保証などしてくれません。
更に付け加えるなら、合成モアッサナイトは「合成」である段階で、宝石ですらありません。
ただの透明な石です。
現在の日本国内のルールでは、宝石と呼んでよいものは「天然石」のみです。
だから、合成ダイヤモンドも本来は宝石ではありません。
これは合成を認めない頑なな業者の意見じゃなくって、れっきとした業界のルールなんですよ。
皆さんも、なんとなく権威ありそうな外見のものに騙されないよう、注意してくださいね。
鑑別書・グレーディングレポート以外の書面
鑑別書やグレーディングレポート以外にも、宝石にまつわる書面があります。
沢山ありすぎてきりがないので、今回は以下の3つの書面に関して解説していきます。
- ソーティング
- 保証書
- 真珠鑑別鑑定書
ソーティングは簡易な鑑別書・グレーディングレポートのこと
ソーティングとは、小さな袋などに鑑別・グレード結果を記載したものです。
主に、簡易な鑑別書・グレーディングレポートの役割を持っています。
そんなソーティングは、基本的に業者間取引でのみ使用します。
業者間では、鑑別書・グレーディングレポートの書面そのものより、結果の方が重要です。
要は、結果さえわかれば良いんです。
また、鑑別書・グレーディングレポートはあくまでも小売で使うものなので、大卸や中卸の段階で作成しても邪魔なだけなんです。
汚れるしね。
保証書とは
ジュエリーを購入した際に発行される保証書は、主に販売店が作っている書面です。
保証書の作成は完全に任意なので、作らない販売店も沢山あります。
保証書とは販売店が保証するための書面であるので、販売店以外では効力を持ちません。
ただ、国内外の有名なハイジュエラーの保証書の場合は、正規店で購入した証となるので置いておくと良いですよ。
買取に出すときに、わずかながらも評価される………かもしれません。
真珠鑑別鑑定書とは
最近問題だなぁと思うのは、こちらの真珠鑑別鑑定書。
いわゆる花珠などの真珠の品質に関する証明書です。
花珠に関して、以前、こちらの記事で少し言及しました。
この記事で述べたように、私は花珠の鑑定に関しては否定的な意見を持っています。
そもそも、真珠は何百万円もするような最高品質のものでも必ず劣化するんです。
程度の差はあっても、人の寿命とあまり変わらない年月で、変質する。
低品質なものであれば、ひと夏の思い出にしかならない程度の真珠もあります。
そんなものに、品質を保証する書面など何の意味があるのでしょうか?
汗や、化粧品、酸性の液体でも品質が落ちるのに、なぜ品質を証明できるの?
そもそも、本来の花珠は、浜上げしたその時に判断する物でした。
貝から剥いたそのままの状態で、商品になるような美しい真珠、それが花珠です。
まだバブルがはじける前の話ですが、養殖屋さんの内での用語だったんです。
現在海から上がる真珠は、残念ながら当時の花珠に足るものは、まず存在しません。
だから、本当の意味で花珠のネックレスが存在したのなら、十万円台で買える代物ではないはずです。
私は、「真珠鑑別鑑定書」というのは、ただの真珠業界の販促にすぎないと考えています。
真珠を売るがための、キャンペーンです。
低迷する業界を支えるために、みんな頑張って考えたのでしょう。
でもこんな事続けていたら、そのうち手痛いシッペ返しを受けるのだろうな、と私は感じるんですよね。
【ジュエリー学No.5】紛失すると意外と大変
鑑別書・グレーディングレポート。
ややこしそうに聞こえますが、実際にはそう複雑なものではありません。
- 鑑別書:宝石の種類が書いている書面
- グレーディングレポート:ダイヤモンドの品質が書いている書面
これだけです。
ただ一つだけ、注意してほしいことがあります。
鑑別書・グレーディングレポートは、無くさない&捨てない!
結構重要なことなんですよ。
宝石に関する書面は、ジュエリー購入時についてくることが多いですよね。
で、タンスに仕舞って、その存在自体を忘れる。
何年かぶりに部屋を片付けると、どのジュエリーの書面であるのか分からなくなっている。
ほとんどの人が、そうです。
でも、鑑別書・グレーディングレポートは、決して安易に廃棄しないでください。
鑑別書・グレーディングレポートは、一度失うと、新規で作成するのはかなり大変なんです。
新規で鑑別書・グレーディングレポートを作成する時、ジュエリーから宝石を外さなくてはいけない場合があります。
台座から外す加工費
↓
鑑別書・グレーディングレポート作成費
↓
再度枠にとめる加工費。
このように、再度発行するには手間も時間も、相当かかります。
もちろん、金額もかかります。
全てがこの手順を踏む訳ではありませんが、何のチェックもなく書面を再印刷してもらえることはまずありません。
だから、邪魔だからと言って、安易に処分することはやめてくださいね。