「宝石商リチャード氏の謎鑑定」という小説は、タイトルだけ見るとミステリー小説のようにも見えますよね。
でも実際は、全然ミステリー要素はありません。
一人の大学生と、銀座に店を構える美貌の宝石商の、波乱万丈な日々を描いた日常小説。
確かに事件は起きますが、トリックや謎を追うものではなく、宝石を巡る人びとの話が中心。
内容は、以前紹介した漫画、「七つ屋志のぶの宝石匣」に近いかな。
ほとんどの話が1話完結ですが、それぞれのお話に繋がっている点があったり、伏線が隠されていたりと、長編小説としても楽しめます。
普通の大学生と外国人宝石商の物語
「宝石商リチャード氏の謎鑑定」の主人公は、ごく普通の大学生です。
ひょんなことから美貌の外国人宝石商リチャードと出会った、中田正義(せいぎ)。
彼は、知り合ったばかりのリチャードに、アルバイトとして雇われます。
どこにでもいる様な普通の大学生と、どこにいても目立つ美しい宝石商。
一見正反対に見える二人は、お客様の抱える様々な悩みや問題を解決してゆくことに。
この物語には不思議な力も、特殊能力もありません。
彼ら二人にあるのは、「正義」という名に恥じない正義感と、敏腕宝石商リチャードの豊富な知識。
そんな自分たちの武器を活かしながら、正義とリチャードがいろいろな謎を解き明かしていく。
それが、「宝石商リチャード氏の謎鑑定」という物語です。
主人公正義の思考はいつもブレない
この小説の一番の魅力は、正義のブレない正義感にあります。
ごくごく普通の大学生である、主人公の正義くん。
彼は、好きな女の子にはっきりと告白することもできない、ごく普通の大学生。
そんな正義が、リチャードと出会ったことで、今まで経験をしたことのないような場所、事件に巻き込まれていきます。
ところが、どんな状況であっても正義は全くブレません。
見たこともない豪邸に通されても、己の正義を貫き通す。
足を踏み入れたことがないジュエリーの世界に踏み入っても、物怖じせずに背筋を伸ばす。
「宝石商リチャード氏の謎鑑定」の世界では、正義は正義のまま。
いつも何も変わらないんです。
冷静沈着(に見える)なリチャードとは、正反対な主人公の姿勢。
一途な正義の思考を、つい応援したくなるんですよね。
敏腕宝石商リチャードも実は……
主人公の正義が熱血漢であるのは、名前を見ても分かりますよね。
ところが、この小説は巻数を重ねるにつれて、冷静沈着なリチャードに変化が起こります。
はじめこそ、正義の熱血ぶりをたしなめていたリチャードも、物語を進めるうちに徐々に正義にも似た熱血ぶりを発揮することに。
正反対に見えていた二人が、実は似た者同士だった。
彼ら二人の心情を読み解くのも、この小説の醍醐味のひとつです。
「宝石商リチャード氏の謎鑑定」に倣うこと
「宝石商リチャード氏の謎鑑定」 は、小説、フィクションです。
当然ですが、こんな美貌で超大金持ちの宝石商はそうそう居ません。
平日は海外の上客のもとへはせ参じ、土日は銀座のお店で優雅に紅茶とお茶菓子をたしなむ。
時に舞い込むお客様の問題を、華麗に解決。
まあ、宝石商という仕事を随分と美化した物語だと思いますよ。
でも、この徹底的に美化されたリチャードの姿勢って、実はちょっと憧れます。
こういう優雅な振る舞いが出来る宝石商になりたいなぁ、って。
フィクションだとわかっていても、こんな上品な人間になりたいと願ってしまうんです。
「宝石商リチャード氏の謎鑑定」
著者:辻村七子
出版社:集英社オレンジ文庫