あなたは、なぜ今の仕事を選びましたか?
あなたが今いる業界のことは、好きですか?
今回紹介する本は、自分の仕事が大好き、自分が扱う商品に誇りを持っている人が書いた、ちょっとした自伝です。
タイトルそのまま、琥珀に恋をした作者が、ジュエリー業界の中でやりたいことを見つけ、その「やりたいこと」のために方々を駆け回ったお話。
作者の経験談なのですが、まるで小説を読んでいるかのような一冊でした。
「琥珀に恋して」しまった若い女性
「琥珀に恋して」は、作者湯澤美香さんが、ジュエリースクールに通っていた頃に経験した、「エターナル・アンバー」という企画への挑戦について書かれた本です。
エターナル・アンバーとは、湯澤さんが考案した琥珀の活用方法の一つ。
琥珀の中にDNA情報や無線ICタグチップを封入し、その特別な琥珀で世界に一つしかないアクセサリーを作成する。
そうしてつくられたアンバーは、アクセサリーとしての価値だけでなく様々な利用方法が考えられる。
これが、作者が考案したエターナル・アンバーの世界です。
企画を始めたきっかけは、ジュエリースクールでの企画作成の授業だったそうです。
つまり、学生さんが考案したアイディア。(当時の学校では、あまりウケの良い企画ではなかったそうですが)
余程琥珀という素材にほれ込んだのか、世界中の琥珀について調べたり、海外の琥珀加工職人さんを訪ねて回ったり、実際に琥珀を採掘しに行ったりと、本当にアクティブ。
もしも私なら、まだ宝石の勉強をしている最中に、自分の惚れこんだ宝石のためにここまでできただろうか?
そんなことを考えてしまいました。
あなたは「琥珀」、好きですか?
琥珀、好きですか?
私はまあまあかな、と思います。
ちょっと特殊な宝石ですしね。
琥珀という宝石は、少し不思議な感覚をもつ宝石です。物理的に。
手で触れると、手に吸い付くような、ペタッとしているような、そんな触感があります。
また、「触れると温かみがある」と言われていますが、正直私は「なんか生ぬるい」と感じます。
そして、とにかく軽い。この軽さのせいで、よく偽物と思われてしまう、可哀そうな宝石です。
昔お土産品としても良くありましたね。
おばあちゃんのタンスには、琥珀かべっ甲、どちらかのブローチが1つは入っているのではないでしょうか?
他にも、映画「ジュラシックパーク」に登場した宝石でもあります。
琥珀は元々が樹液の化石ですので、中に虫などの生き物が閉じ込められていることがあります。その閉じ込められた生物の血液から生まれたのが、「ジュラシックパーク」の恐竜たち。遺伝子を回収して、現代技術で蘇生した古代の生き物が――
まあ、実際に琥珀から恐竜が蘇ることはないのですけれど。
ただ、生物が中に入った宝石って、琥珀の他にはほぼありません。
そういった意味では、とても特殊な宝石なのでしょうね。
作者の愛が凄い一冊
実はこの「琥珀に恋して」の中には、様々な琥珀のコラムが載っています。
おまけのように掲載されていますが、結構面白いことも書かれていました。
というか、琥珀自体の解説はほぼコラムにしか載っていません。
本文は、とにかく琥珀への愛であふれています。
「ああ琥珀、あなたはなぜ琥珀なの」
みないな。
良く言えば、好きなものに情熱を注ぐタイプの人が、好きなものを追いかけている話。
悪く言えば、「自分が良いと思ったものは、他人も良いと思うに決まっている!」という思考の元、ただひたすら突っ走っている話。
琥珀の事を、「まあまあ」と評した私にとっては、どちらかと言えば後者なイメージが残る一冊でした。
読み物としては、興味深かったですよ?
ただ、エターナルアンバーをどのように作品(商品)にしたか、とか、実際に販売した感触はどうだったのか、とか、特許取得の先にどのようなことがあったのか、など現実的な話題がなかったんです。
もうとにかく、「琥珀いいよね!」「琥珀ってこんなところが素晴らしいよね!」みたいな流れだけなので、肝心のエターナルアンバーの姿が見えてこなかった。
その点では残念かな、と。
もう少し、エターナルアンバーの実態を知りたかった。
琥珀という宝石にそこまで魅力を感じていない人が読むと、少し胃もたれする内容かもしれません。
でも何度も言うように、読み物としては面白かったし、興味深かったんです。
人が何かを愛すると、ここまで積極的になれるのか、って。
ああ、私も好きなものに対してこんなに積極的になれたらいいのにな、って。
作者のような人に、私もなりた…………い?
う~ん…………………
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いや、私は私で良いです。
「琥珀に恋して 地球最古のオーガニック・ジュエリーの楽しみ方」
著者:湯澤美香
出版社:幻冬舎ルネッサンス