真珠を扱う仕事をしている私にとって、「当たり前のことだけど、つい頭の端に追いやられている大切な事」があります。
それは、アコヤ真珠は「生き物を使い、人の手で作り出す」宝石であるということ。
アコヤ真珠は、アコヤ貝という生物によってもたらされる宝石です。
そして真珠を生み出すアコヤ貝は、当然ですが、真珠を作っているその段階では生きています。
その生きているアコヤ貝を用いて、アコヤ真珠を作るのが養殖業者の皆様方。
暑い日も寒い日も、予測が難しい自然と向き合って、一生懸命美しい真珠を育てて下さっています。
これは、既に出来上がった真珠ばかりを見ていると、見落としがちな事実です。
ですが決して忘れてはいけない事実でもあります。
今回は、「おか」で働くジュエリー業者である私が、感謝を重ねてもまだ足りない、養殖業者様とアコヤ貝様にまつわる本を紹介いたします。
科学する真珠養殖-真珠養殖Q&A-
アコヤ真珠の養殖に関する書籍です。
- 「科学する真珠養殖-真珠養殖Q&A-」は図書館か古本屋で
- 科学する真珠養殖-真珠養殖Q&A-は真珠養殖の深~い話
- 科学する真珠養殖-真珠養殖Q&A-を読むと大切なことが見えてくる
- 養殖業者様が居てこその真珠ジュエリー業界
- 一次産業従事者への感謝~真珠業界にいるAさんの体験談~
- 「科学する真珠養殖-真珠養殖Q&A-」は養殖業者以外でも一読の価値あり
「科学する真珠養殖-真珠養殖Q&A-」は図書館か古本屋で
本を紹介する記事ですが、残念ながら現在「科学する真珠養殖-真珠養殖Q&A-」は、書店では取り扱われていないようです。
読めない本を紹介するのはどうなの?
そう思って、入手方法がないか色々とネット検索してみました。
その結果、有効な入手方法としては「図書館で借りる」「古本屋で購入する」のどちらかでした。
図書館で借りる方法
国立国会図書館サーチ(NDL Search)で検索をした結果、「科学する真珠養殖-真珠養殖Q&A-」は、
- 鹿児島大学 附属図書館 水産学部分館
- 東京海洋大学 附属図書館
の2カ所にあることが分かりました。
国立国会図書館サーチとは、公共図書館の蔵書検索が出来るサイトです。
「国立国会図書館サ0ーチ」は、国立国会図書館をはじめ、全国の公共・大学・専門図書館や学術研究機関等が提供する資料、デジタルコンテンツを統合的に検索できる「『知』のアクセスポイント」です。
~国立国会図書館サーチより~
ですが、上記2カ所以外は検索にヒットしませんでした。
つまり、図書館で借りる場合は、鹿児島大学か東京海洋大学の図書館に行く必要があるということですね。
多くの人にとって、現実的な方法とは言えないですね。
古本屋で購入
次に、古本屋で購入する場合です。
今回はこちらのサイト様で検索をしました。
なんと一件だけですが、在庫がありました。(2023/1/21現在)
「科学する真珠養殖-真珠養殖Q&A-」
「続・科学する真珠養殖-真珠養殖Q&A-」
「続・科学する真珠養殖-真珠養殖Q&A-②」
続編も含めた全3冊セットで、5,000円。お買い得だと思います。
その他、オークションサイトなどでも検索をしましたが、残念ながら現在出品はされていないようです。
ところで。
私は、「科学する真珠養殖-真珠養殖Q&A-」と「続・科学する真珠養殖-真珠養殖Q&A-②」を持っていますが、2巻の他にもう1巻あったのですね。
科学する真珠養殖-真珠養殖Q&A-は真珠養殖の深~い話
このように、「科学する真珠養殖-真珠養殖Q&A-」なかなか手に入れづらい本ですが、それもそのはず。
「科学する真珠養殖-真珠養殖Q&A-」は、真珠養殖で重要となるアコヤ貝についての学術的な内容が書かれた本。
普段からアコヤ貝と向き合う養殖業者ではない私には、かなり難しい内容の本でした。
具体的には、
- アコヤ貝の解剖や生体の詳しい内容
- アコヤ貝の染色体の差による真珠の仕上がりの差
- 海水温や海の状態がアコヤ貝にもたらす影響
- 有効な貝掃除のやり方
など、養殖業に関わる学術的・技術的内容が多いです。
つまりこの本は、養殖業を営む人の為のQ&A。
だから、普段からアコヤ真珠を扱っていると言っても、私のようなジュエリー業者はこの本を読んでも実利にはなりません。
(知識として知っておくべきだとは思いましたが)
実際のアコヤ貝(海)とこの本を見比べて、初めて役立つのでしょう。
科学する真珠養殖-真珠養殖Q&A-を読むと大切なことが見えてくる
ではなぜ理解できないのに、読んだのか?
それは、この本を読むことで大切なことが見えるのではないか?と思ったからです。
まあ、純粋にアコヤ真珠に関する知識欲もありましたケド。
アコヤ真珠が、アコヤ貝で作られているのは知っています。
アコヤ真珠のおおまかな養殖工程も知っています。
でも、私が知っているのは知識だけ。表面だけです。
ところがこの本には、もっと深いアコヤ貝の知識が書かれていました。
例えば、アコヤ貝の体力について。
養殖過程でアコヤ貝の体に、外科用のメスをいれます。
その際に貝は出血するので、手術によって体力を消耗したり、傷口から感染症を起こす場合があるそうです。
言われてみると当たり前のことです。
でも、言われるまでは気づいていませんでした。
アコヤ貝は、生きている。
その事実を生々しく教えてくれる内容ですね。
養殖業者様が居てこその真珠ジュエリー業界
この本を読むと、もう一つ大切なことを思い出します。
それは、アコヤ貝を育て、自然と向き合い、美しい真珠を作り出す、真珠養殖業者様の存在です。
「科学する真珠養殖-真珠養殖Q&A-」は、かなり深い内容の学術書です。
その内容を理解し、養殖を行うのは、とてつもない技術だと思いませんか?
頭脳も技術も体力も必要な、真珠養殖の現場。
私たちのような真珠ジュエリーを扱う業者は、養殖業者様が居てこそ商売が出来るんです。
逆に言えば、養殖して頂けなければ、私たちの仕事は出来ません。
「科学する真珠養殖-真珠養殖Q&A-」を読んで、改めて養殖業者様への感謝の念を思い出しました。
一次産業従事者への感謝~真珠業界にいるAさんの体験談~
昔この業界に居るAさんに、自身の体験談を交えながら、こんなことを言われたことがあります。
「真珠を扱うなら、養殖業者さんへの感謝は、絶対に忘れてはいけない。養殖業の人の方が立場が上なんだと心に留めて、真珠を作ってくれたことに感謝しながら、真珠の商売をしなさい」
今の季節、各養殖地では、入札会(その年出来上がった真珠の値段を決める会/いわゆるオークションみたいなものです)が行われています。
入札会の会場には、大手のジュエリーメーカーや真珠を取り扱う業者が訪れ、それぞれの真珠に自分たちが希望する価格の「札」を入れます。
Aさんは今から何十年も前に、真珠の取り出し~入札会までの様子を現地で見ていたそうです。
(Aさんは、養殖業者でもないし、入札会の参加者でもありません)
寒い冬の海で、汗や潮風に塗れながらも、真珠を一つ一つとり出す養殖業者さん。
長い養殖期間を経て、ようやく出来上がった真珠たち。
その真珠が集められるのは、暖房が完備され、大きな窓と真っ白なテーブルが用意された綺麗な会場。
会場には、都会から綺麗なスーツに身を包んだ人がやってきます。
入札会では、養殖業者さんが必死になって作った真珠を、小奇麗な格好をした商売人が暖かい部屋で値踏みする。
Aさんは、どちらかと言えば「綺麗なスーツを着ている」側の人間なので、その様子を見て、襟を正さないといけないと感じたそうです。
自分たちが商売できるのは、真珠を作ってくれた人のおかげなんだ、と。
もちろん、養殖業者と買い取る側のどちらが良い悪いという話ではありません。
どちらの方が「立場が上である」ということもありません。
養殖業者と買い取る側は、互いに良い所も悪い所もあって、それも含めてバランスとりながらやっています。
この「バランスをとる」時に絶対に必要なもの、それが「相手への感謝」だと思うのです。
養殖業ささんへは、自分の方が立場が下だと思える程の感謝をしなさい。
Aさんが言っているのは、そういうことだったのだと思います。
「科学する真珠養殖-真珠養殖Q&A-」は養殖業者以外でも一読の価値あり
本の紹介、と言うよりもアコヤ貝や養殖業者様に感謝しよう、という記事になってしまいました。
紹介した通り、「科学する真珠養殖-真珠養殖Q&A-」は中々手に入れにくい本です。
それでも、アコヤ貝が生き物であることや、養殖業者さんが様々な苦労をしながら生産する物だということを思い出させてくれる一冊でした。
どこかでこの本を見つけたら、あなたも是非一度読んでみてください。
いろいろな意味で、真珠の見方が変わりますよ。
「科学する真珠養殖-真珠養殖Q&A-」
著者:和田浩爾
出版社:真珠新聞社