真珠には、様々な種類があります。
アコヤ、白蝶、黒蝶、淡水………
他にも、コンクにマベに、アワビまで。
実はこれ以外にも、真珠にはもっとたくさんの種類が存在します。
その上、同じ種類の真珠なのに、複数の名称があることも。
アコヤ真珠=和珠=本真珠(本真珠は完全にイコールとは言えませんが)
真珠の種類や名前って、本当に混乱必死のジャンルですよね。
そこで今回は、真珠の種類について解説していきたいと思います。
なお真珠には、天然真珠と養殖真珠があります。
自然に生まれたか、人の手で作ったかの違いですね。
現在市場に流通している真珠のほとんどが、養殖真珠です。
そのため、今回の解説では主に「養殖真珠」に的を絞って紹介していきます。
真珠の正体
真珠の種類を考える前に、真珠という宝石について考えていきましょう。
真珠とは、貝という生物の自己防衛で生まれます。
貝殻の内部には、しばしば異物が侵入してきます。
水中のごみや、微生物などですね。
それら異物が自身の体内を傷つけないよう、貝は自らの能力で異物にコーティングを施すのです。
コーティングされた異物、これこそが真珠の正体。
この貝の性質を利用して、人工的に真珠を生み出すのが、真珠養殖の世界です。
ほとんどの貝は真珠を作れる
真珠が生まれる理由は、貝に異物が侵入したからです。
そして、どんな貝であっても、貝殻内に異物が侵入する可能性を秘めています。
実際、真珠という物質を作れる貝は、沢山います。
ところが、宝石として通用する真珠を作れる貝は、ごく一部だけ。
宝石としての真珠を生み出せる貝の特徴、それは貝殻が美しい光沢を持っていることです。
真珠は基本的に、その貝が持つ貝殻と同じ色・輝きで生まれてきます。
フジツボや海藻が付いている、貝殻外側のことではありませんよ。
貝の体貝殻内側の色です。
だから貝殻の美しい貝だけが、宝石として通用する真珠を作り出すことが出来るのです。
(養殖真珠の場合、真珠の色は母貝(真珠を生み出す貝)の色と完全に一致する訳ではないのですが、ヤヤコシイ話になるので省略します)
海で養殖する真珠
真珠養殖に用いられる貝は、そのほとんどが海に生息しています。
そのため、真珠養殖のほとんどは、海で行います。
ちなみに、淡水(湖など)で養殖される真珠のことを、淡水真珠と呼びます。
これに対して、海水で養殖する真珠を、「海水真珠」と呼ぶことは稀。
ほとんどが、個別の真珠名で呼ばれています。
わざわざ「海水」と言わずとも、真珠は基本的に海のもの。
それくらいに、海で養殖される真珠が多いということですね。
ではまずは、海水に生息する貝が生み出す真珠について、見ていきましょう。
アコヤ真珠
養殖アコヤ真珠の天然カラー
アコヤ真珠は、世界で初めて養殖に成功した真珠です。
皆様ご存じのミキモト創業者、真珠王・御木本幸吉さんの功績ですね。
まあ、厳密に言うと、こうきっちゃんは人づきあいと営業が上手な人物であって、技術者じゃないです。
つまり、本当の意味で真珠養殖に成功した人物は、別にいるんです。
だけど、養殖真珠を方々に広めたこうきっちゃんがいなければ、日本の真珠業もこんなに発達してなかった訳で。
だからね、御木本幸吉さんに功績があるっていうのは、本当なんですよ。
話は戻りますが。
アコヤ貝の主な生息地は、日本。
他にも中国や東南アジアにもいます。
20世紀、アコヤ真珠はほぼ日本でのみ養殖されていました。
ところが近年は、中国やベトナムにおされています。
日本近海の海が汚れたから、赤潮の被害があったから。
そして何より、真珠養殖では生活が出来ず、養殖業そのものが衰退してきたから。
今年、とうとう8.5mm以上の真珠(ごく一般的なアコヤ真珠のサイズ)の浜揚げが、ほぼ0となりました。
来年も、おそらくは全く採れないだろうと噂されています。
数年間真珠が採れない年が続けば、その後に再び上質な真珠が採れるまで、何年、何十年とかかることでしょう。
日本で真珠養殖が始まってから、既に120年以上。
普段当たり前に存在する日本のアコヤ真珠ですが、実はジリジリと、でも確実に絶滅の道を辿っているように思えるのです。
<アコヤ真珠の名称>
アコヤ真珠は、和珠と呼ばれることもあります。
それくらいに日本の特産品だということです。
また、アコヤ真珠のことを、本真珠と表記することもあります。
ただし、本来「本真珠」とは、「本物の真珠である」という意味です。
つまり、貝パールなどのフェイクパールではない、ということを表している言葉。
そのため、アコヤ真珠以外でも、「本真珠」という名称を使うことがあります。
例えば、「淡水本真珠」と 表示されていれば、本物の淡水真珠という意味になります。
<アコヤ真珠の大きさ・色>
アコヤ貝は、真珠を生み出す貝としては比較的小さい貝で、大体手のひらに収まる程度の大きさです。
母貝が小さいので、生み出す真珠もあまり大きくはありません。
3mm程度から、大きくても10mmくらいまでが一般的です。
色合いは様々あり、一般的には白~クリーム~ゴールド色をしています。
また天然のブルーグレーカラーをした、アコヤ真珠もあります。
この色味のアコヤ真珠は、特別に「アコヤナチュラル」や「ナチュラル」と呼びます。
(上の写真に写っている、ブルーグレー~鈍い銀色をしたアコヤ真珠が、ナチュラルです)
この色味は天然の色であり、アコヤ真珠の中でも数が採れない希少なものです。
白蝶真珠
白蝶貝はサイズが20~30cm程度ある、とても大きな貝です。
この大きさは、真珠を養殖する貝としては、最大の部類に入ります。
そんな大きな白蝶貝は、主にオーストラリアやフィリピン、インドネシア、ミャンマーなどの海域で生息・養殖をしています。
どの海域も同じ白蝶貝なのですが、海域によっては真珠の色に差が出ることも。
ちなみに、日本では石垣島や奄美大島でも、白蝶真珠の養殖がおこなわれています。
白蝶貝の北限はフィリピン近海ですので、日本は元々白蝶貝が生息していた地域ではありません。
人工的に採苗し何とか養殖にこぎ着けたのが、日本の白蝶真珠なのです。
<白蝶真珠の名称>
白蝶真珠は、SOPと略されることがあります。
これは、South Ocean Pearlの頭文字で、日本語に訳すと南洋真珠ですね。
つまり、白蝶真珠=SOP=南洋真珠です。
<白蝶真珠の大きさ・色>
アコヤ貝と比べると、圧倒的に大きい白蝶貝。
当然、採れる真珠も大きくなります。
もちろん、小さな真珠を養殖することも可能ですが、一般的には10mm以上あるようなサイズを養殖します。
中には、30mmを超えるような白蝶真珠もあるんですよ。
また白蝶貝の貝の縁は、大きく分けて2種類の色があります。
この縁の色によって、生まれる真珠の色も変わってきます。
1つは、シルバーリップ。
白蝶貝の一般的な色味で、養殖できる真珠は主に白系の真珠です。
もう一つは、ゴールドリップという種類の白蝶貝。
こちらの貝では、文字通り金色の真珠を養殖することが出来ます。
奄美大島で養殖されている白蝶真珠は、このゴールドリップのタイプです。
フィリピンもまた、ゴールドリップの白蝶真珠を養殖しています。
ですが、ゴールドカラーの真珠は、個人的には奄美大島のものが最良だと感じます。
どっしりと重みすら感じる、金製品のような深い黄金色。
それに対してフィリピン産は、少し色味が薄く、軽い印象があります。
そんな奄美大島のゴールドパールは、奄美ゴールドとも呼ばれています。
残念ながら近年は奄美大島も養殖業者が減ってしまい、奄美ゴールドはほとんど養殖が行われていません。
アコヤ真珠もそうですが、養殖が衰退し、技術が失われれば、再び養殖を再開することはとても難しいです。
たとえ運よくゴールドリップの養殖が再開したとしても、今のような美しい奄美ゴールドが生まれるまでには、何年も何十年もかかります。
当然、潤沢な資金も必要です。
つまり、奄美ゴールドという真珠は、とても希少なものなんですよ。
黒蝶真珠
黒蝶真珠もまた、南の海で養殖されている真珠です。
養殖がおこなわれているのは、主にタヒチや石垣島です。
また、少し貝の品種が異なりますが、フィジー辺りでも黒蝶真珠の養殖がおこなわれています。
<黒蝶真珠の名称>
黒蝶真珠には、あまり多くの別名はありません。
黒真珠、ブラックパールと呼ばれます。
ただ、アコヤ真珠を真っ黒に染め上げた真珠のことを、黒真珠と呼ぶこともあります。
この場合は、貝の品種名ではなく、 単に真珠の色が黒であるという意味なのですが…………
誤解を招くかもしれない名称は、避けてしかるべきですよね。
<黒蝶真珠の大きさ・色>
黒蝶貝は、白蝶貝ほどのサイズはありません。
大体、10~20cm程度の大きさです。
アコヤ貝と白蝶貝の中間程度の大きさですね。
三つの貝を比較すると、こんな感じ。
黒蝶真珠の色合いは、白っぽいグレーから黒まで様々あります。
黒、と一言で言うと無彩色を思い浮かべますが、実際の黒蝶真珠は実に色彩豊かな真珠です。
主にグリーン系と赤系に大別されますが、グリーンと赤の両方を持ち合わせる黒蝶真珠もあります。
中でも、まるでクジャクの羽のような見事な色合いの黒蝶真珠は「ピーコック」と呼ばれ、黒蝶の最高級品とされています。
<チョコレートパール>
ところで、黒蝶真珠の写真の中に、茶色のものが一本混ざっていますよね。
これも、黒蝶真珠です。もちろん色は偽物、染色されています。
茶色の黒蝶真珠は、10年ほど前にとても流行りました。
チョコレートパールとか、ショコラパールとか、そんな名前が付けられて。
当時は、品質の悪い黒蝶を染めたものなのに、結構な高値で売れていたようです。
鑑別会社にも持ち込まれ、データ分析が行われました。
通常、新しいタイプの加工処理が生まれたら、加工処理業者はそれを(加工内容を公表せずに)鑑別会社に持ち込みます。
そして、どのような結果が出るかを見定めるんです。
嫌な言い方をするなら、「鑑別会社を試す」。
もちろん染色は見破られるのですが、それでも加工方法は業者の社内秘。
各社様々な方法で、そのままでは売りづらい黒蝶真珠を茶色に染め上げていました。
残念ながら、10年経つと当時の染色技術の差が出てくるもので。
現在も当時のまま綺麗なチョコレート色を保っている珠もあれば、染色が落ちて薄汚れた黒蝶真珠になっているものもあります。
新しい技術だったので、10年後の保証は出来なかったのでしょう。
現在は、どこの会社もあまり取り扱いません。
だってそこそこ値の張る真珠が高々10年で色落ちしていたら、自社のイメージまでが地に落ちますからね。
一種の栄枯盛衰です。
マベ真珠
マベ真珠とは、マベ貝という名前の貝で養殖される真珠です。
名前はそのままですが、形が他の真珠とは全く違います。
マベ真珠は、そのほとんどが半円形をしています。
これは、養殖方法の違いによるもの。
通常の養殖真珠では、母貝の中に丸い玉(核)を入れます。
母貝は、自身の中に入れられた核の表面に真珠層を作り、そうして作られるのが真円真珠。
ところがこのマベ貝は、貝の体内に核を入れる養殖は行いません。
貝の構造上の問題などが影響し、マベ貝は核を体内でキープ出来ないんです。
そのため、マベの養殖では、マベの貝殻に半円形の核を貼り付け、その上に真珠層を作ることで、半円の真珠を作り出します。
つまり、貝殻を真珠として利用する、ということですね。
養殖後は貝殻から真珠部分をカットし、裏側に別の貝殻(白蝶貝など)で蓋をして、マベ真珠が完成します。
先ほどのマベ真珠の裏側の写真です。
白蝶貝が貼り付けられています。
ではなぜ通常の真珠養殖よりも手間のかかる、マベ真珠を養殖するのか?
それは、マベ貝が作る真珠がとても美しいからです。
ホワイトからブルーグレーの地色と、虹色に輝く表面の光沢。
他の真珠とはまた違う、独特の美しさがマベの魅力です。
ちなみに、マベの真円真珠養殖に成功した事例もあります。
とても貴重なので、一般的にはあまり出回らない品物です。
コンクパール
養殖真珠ではありませんが。
最後に人気の高い天然真珠を一つ、紹介します。
それは、コンクパールという真珠です。
コンクパールは、かわいらしいピンク色をしていて、一見すると鉱物のようにも見えます。
ですが、コンクパールはコンク貝(ピンク貝)が作り出す、れっきとした真珠の一種。
コンク貝とは、フロリダやカリブ海、バハマなどに生息している大型の巻貝です。
この写真の、お店の棚や店先に並んでいるのが、コンク貝です。
残念なことに、コンク貝は乱獲により激減し、現在はワシントン条約に掲載されている絶滅危惧種でもあります。
バハマでは、もうあと数年の内にコンク貝が絶滅するという試算も出ています。
ちなみに、コンク貝のを乱獲するのは、宝石を採ることだけを目的としている訳ではありません。
このピンク色の貝は、実は食用の貝なんです。
どんな味がするんでしょうね。
そんなコンク貝が作り出す、天然真珠コンクパール。
実は、他の養殖真珠とは異なり、貝が真珠層を巻いて作っているものではありません。
そのため、構造も何もかもが、普通の真珠とは異なります。
その上とっても脆いという弱点まで抱えています。
そのため、コンクパールの加工は高度な技術を持った職人さんにお願いするしかありません。
それでもコンクの加工の際は職人さんに、「まずはルース状態のコンクパールに保険をかけてください」と言われることも。
技術ある人でも、コンクパールの加工は難しいということですね。
コンクパールのジュエリーを見たい方は、是非MIKIMOTOのHPで検索してください。
美しいコンクパールジュエリーを見ることができます。
サイトに具体的な値段は書いていませんが、小さいものでも車が買えるような値段ですよ。
また、時々、安価なコンクパールが販売されています。
そういったものの中には、コンクパールを使用せず、コンク貝の貝殻そのものを丸くけずって、コンクパールのように見せているものもあります。
本物のコンクパールとの価値の差は、言うまでもありませんよね。
真珠の話は長くなる?
ここまで、大まかに海水で養殖する真珠についてみてきました。
実は他にも、沢山の海水の真珠はあります。
また、それぞれの真珠についても、山のような情報が。
たとえば、アコヤ貝の貝の身は食べられたものじゃないけど、アコヤ貝の貝柱は超絶品!
バター炒めをしたら、最高!
旨味があふれて、ホタテなんてもう食せなくなる程です!
…………みたいな話題とか。
面白い雑学もまだまだありますし、本当に伝えたい真珠養殖業の危機の話もまだまだあります。
真珠について語り始めると、本当に長くなりますね。
長くなりすぎるので、今回はこの辺りで一旦切り上げたいと思います。
次回は、淡水真珠の話と、その他の真珠話を。