こちらの写真は、指輪の位置や角度を考えている最中の写真です。
ホワイトワックスではなく、両面テープでリングを立てていますね。
リングの下にしっかり両面テープが映っています。
通常、ホワイトワックスの代用に両面テープを利用しても、リングは立たないことが多いです。
ところがこの指輪は、表面が平らな「平打ち」であり、更には幅も広めに作っています。
そのため、両面テープとリングの接地面が広くなり自立しているんです。
このリング、実は作る際には様々な苦労が潜んでいます。
簡単な作りのようにも見えますが、意外と簡単には作れないものなんですよ。
単純に見えるデザインの中には見えない苦労が潜んでいる
真珠が二列に並んだだけの、簡単な作りのリング。
ところが、このリングを作るためには、結構苦労をしています。
- リングに使用する真珠の選定
- リング本体を作る職人の技量
単純に見えても、そこには色々な努力が潜んでいるのです。
厘珠を10ピース揃えるのが大変
リングに使用したのは、あこや真珠の厘珠(りんだま)。約3mmのものです。
厘珠はそのサイズから養殖するもの一苦労な真珠であり、生産量もそれほど多くはありません。
そのような希少な厘珠を、合計で10ピース使用しています。
たった10ピース揃えるくらい、簡単だと思いますよね。
でも実際には、10ピースだけでは到底足りないのです。
ジュエリーで真珠を使用する場合、指定された個数だけを用意しても意味がありません。
指定数の何倍もの真珠を用意して、その中から選定するのが一般的です。
一見同じ色・大きさに見える真珠。
ところが実際には、どの珠も微妙に色、サイズが違います。
そのため沢山の真珠の中から、ぴったりと合うものを探す作業(珠合わせ)が必要となるのです。
特に、今回のリングのように真珠同士を隣接させる場合は、より厳密に色・サイズを揃えなくては美しいジュエリーに仕上がりません。
僅かな色の違いも見逃さず、サイズに至っては1/10mm単位(もしくはそれ以上に細かい単位)で揃える。
たった10ピース。
その10ピースのために、とんでもなく沢山の真珠を用意しなくてはいけないのです。
リング枠にも高い技術が潜んでいる
苦労してようやく揃えた10ピースの真珠。
あとはこれをリング枠にセットするだけ。
次の問題は、そのリング枠です。
こちらのリング枠は、この道五十年を超えるジュエリー加工職人さんの手作りの品です。
この10ピースの真珠にぴったり合う、専用のリング枠。
1ピースずつきっちりと合わせて、真珠の受け皿を作っていただきました。
そのため、他の真珠を持ってきても、サイズが合うとは限りません。
まさに、用意したこの真珠のためだけに作られた、手作りリング枠なんです。
一番厄介な点は、横にまっすぐ並べ、尚且つ縦方向にもきっちりと揃えること。
縦横ピッタリそろった、二列の真珠。
わずかでもズレれば、途端に美しさが損なわれます。
加工後に、「ジュエリーは単純なものほど難しいよ」と教えていただきました。
ピエロペンダントとはまた違うハイジュエリー
どこにでもありそうに見えるけれど、究極の一点モノ。
量産できそうに見えても、量産品とは違う一品。
それが、この写真に写っているジュエリーです。
先日紹介したピエロペンダントも、素晴らしい出来でした。
細部に至るまで、加工の技術が光っていた。
対して今回の写真にあるリングは、おそらく一見するだけでは分かりにくい凄さが詰まっています。
簡単に作れそうに見えるけれど、宝石商だから分かる、裏方の苦労。
もちろん、単純なデザインなので、量産しようと思えば簡単にできます。
けれど、そこを妥協せずに細部にまで拘る。
分かりにくくても、手を抜くことなく作る。
そんなジュエリーもまた、写真に残しておきたい一品です。